11人が本棚に入れています
本棚に追加
結局その日ナルさんのお店に来たのは、
私達だけだった。
ナルさんが今日は早めに休むと言うので、
私達は帰ることにした。
「ナルさん、ご馳走様でした。」
「いえいえ、此方の都合で
閉めちゃってごめんね。」
と申し訳無さそうな顔で言った。
でも、こればかりはしょうがない、
ナルさんも商売なのだ
暇な日は閉めたいだろう。
聡は朝まで居させてくれと
懇願していたが、引っ張って連れていく。
ナルさんは私の分の金額の書いた紙を
提示し、聡にもそれを渡そうと
してたけど聡は持ち合わせが
あまりないだろうから、
一緒でいいと言って払っておいた。
「千咲はなんだかんだ、
面倒見がいいわよね。」
ナルさんはそう言って笑ってたけど、
どうせ貸してくれと言うだろうし、
先に払ったまでの話。
「ありがとう、ごめんな……。てか、
ごめんついでに、今夜泊めてくれ。」
うん、やっぱりこうなるよね。
「言うと思ったよ。」
私達は、手を振るナルさんの姿を後ろに、
カランカランと音をたて店を出た。
もう時間はてっぺんを過ぎたというのに、
まだまだ外はネオンが消えず、
人々の姿が元気よくあった。
寒空2月、何処も暇だと言われてるのに、
一体皆何処に行ってるのだろう。
「なぁ千咲。」
「何?」
「お前にとって俺って何?」
聡の急な問いだった。
「急に何?どうしたの?気持ち悪い。」
「何でお前はさ、
俺に色々してくれんの?」
なんでだろう?なんでかな……。
いや、多分……。
「見てると危ういからかな?
なんというか……、不安になる。」
初めて見た時から、聡の危うさは
誰かを思い出させる。
でもそれ以上に………。
「お前も大概だぞ。」
「そうかな?聡よりはマシじゃない?」
そんな意味の無い会話をしながら歩く、
聡は私の冷えた手をそっと握った。
傍から見ればカップルだろうけど、
私達はカップルでもなく、友達でもない。
仲は良いけど何処かに隔たりがあった。
最初のコメントを投稿しよう!