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ある木曜日の深夜一時。カウンターには佐藤の幼なじみのマキが、閉店したにも関わらず帰る素振りも見せずに〆のコーヒーを飲んでいる。
佐藤はマキから不倫の相談を受けていた。
「旦那さんってさあ、結局、奥さんが造りあげた作品だと思うんだよね。まあ、これは誰かの受け売りなんだけどさ。そう考えると、マキが求めるってことは、『奥さんの作品に惚れました。私には造ることができません。』って認めた挙げ句、負けも宣言してるって思わない?」
佐藤のドヤった顔に、マキは少し考え込んで返した。
「ねえ、あなたは服とか買うでしょ?」
その問を佐藤は訝しんで、困惑した顔をマキに向けて答えた。
「……買うよ」
「何で買うの?」
「それは欲しいからだね」
「その時、作った人のこと考える? よっぽどデザイナーやブランドに思い入れあったら別だけど」
佐藤が黙っていると、マキは続けた。
「私は今の彼が欲しいの。それが誰の作品でも気にしないわ。ただ、そこに気に入ったものがあるから欲しいだけ」
良いことを言ったつもりだった佐藤は、何も返すことが出来ずに黙り込んだ。
相談でも何でもないじゃないか。ただの決意表明だろ!
佐藤の不満顔とは対象的に、マキの顔は不適に笑っていた。
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