諦めきれぬ想い

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 ある日曜日の二時過ぎ。店の前の小路には、晴れの日に相応しい爽やかな風が通り過ぎ行く。  佐藤は、店内のお客にもそんな空気を感じてもらいたくて、入口のドアを開け放していた。  テーブルは三席とカウンターが二席埋まっている。  オーダーを一通りこなし、ふと入口に目を向けると、ちょうど一組の男女が入ってくるのに気がついた。 「いらっしゃいませ」  カウンターから出て声をかけ、テーブルとカウンター席のどちらが良いかと尋ねる。 「テーブル席でお願いします」との男性の返答に、佐藤は空いている入口左の席に案内する。  恰幅が良く、柔和そうな男性と、品と艶が上手く共存しているような女性は、共に七十歳は越えているように見えた。  オーダーは二人ともアメリカンとのことだったが、残念ながらメニューにはない。もちろん作れない訳ではないが、佐藤はメニューにあるアメリカーノを進めてみた。 「エスプレッソをお湯でのばしたものです」  佐藤の説明に二人が頷いたので、カウンターに戻り準備にかかる。  飲食業あるあるだが、店内のお客の会話はほとんど聞き分けることができる。余程の小声や個室でもない限り、店員には大体聞こえているものだ。目だけでなく、耳でも店内の状況を把握する。佐藤は人一倍それに長けていた。  この時も意識したわけではないが、先程の二人の会話が届いてきた。 「アキオ君、わたしね、店を閉めることにしたわ」 「……。そうか。旦那さんが亡くなってから三十六年。さっちゃんは良く頑張ったよ」 「ありがとう。あの人が三十五歳で死んでから、なんとかやってこれたのもアキオ君のおかげだわ」 「何を言うんだ、さっちゃんが努力したからだろ。俺なんて、たまに店に顔出すくらいしか……」 「ううん。そんなことないわ。たまにどころか、しょっちゅう団体で使ってくれて。お客様も紹介してくれたし」 「それは、さっちゃんの器量が良かったからだよ」 「気を使ってくれてありがと。娘もね、望んだ形とは違うけど頑張ってくれてるから、そろそろいっかなって」 「サキちゃんは頑張ってるよ。やっぱり親子だね。自分で小料理屋開くんだから」
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