10人が本棚に入れています
本棚に追加
ある火曜日の夜十二時過ぎ。お客も引けて、中央のテーブルに座る二人の男女だけに。
二人とも三十代後半だろうか。スーツを綺麗に着こなした渋い感じの男性と、妙に物憂げで色気のある女性が静かに会話している。
声は小さいものの、BGMに邪魔されることなく、カウンター内でグラスを洗う佐藤にも届いてくる。
「ねえ、男女の友情ってあると思う?」
女性の問いに男性が答える。
「あると思うよ。だって俺らがそうだろ?」
「そうね。わたしたちは友情が成立してるわよね」
女性は少し意地悪そうに続けた。
「じゃあ、友情が壊れる時ってどんな瞬間かな? あなたはどう思う?」
それを聞いて佐藤は思った。壊してしまえよ! その先への誘いだろ?
「そうだなあ。でも、俺とお前の友情は壊れないよ。そんな瞬間はこないよ」
そう言って男性は氷の溶けかけたジェムソンを飲んだ。
佐藤はもやっとした。結局、暗に断ったのか、それとも踏み込むことを躊躇したのか、はたまた気づいてないのか。う―ん。自分なら迷わず踏み込んだのに。
そう思いながら、グラスを洗い続けた。
最初のコメントを投稿しよう!