PR.「絶望の天使」

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薄暗い路地裏、光は月明かりが少し入ってくる程度しかない。 都会の喧騒から程遠いこの場所は昼夜問わず静かで、人はめったにここで足を止めることはない。 だが今日は珍しく1人の男がうずくまっていた。 年の頃は…40後半だろう。 彼の姿は、はた目から見ても明らかに憔悴しきっている。  なぜか?   彼は、今日妻を亡くしたのだ。 あまりに突然過ぎる死だった。 確かに彼の妻は病気がちではあった、だが日常生活に支障はなかった。現に今朝もいつものように彼を送り出すほど元気だったのだ。 …知らせが入ったのは午後。 勤めている会社に病院から「奥さんが運び込まれました」と連絡がいき彼は急行した。 けれど、遅かった。 着いたときにはすでに彼の妻は死んでいた。 通された部屋で彼の妻は白い布を顔に被せられ、冷たくなっていた。 布を払うと血の気のない死に顔があり、間違いなく彼の妻の顔であった。 彼は…そこで一体どれだけの時間泣いていただろう。 その後、医者が病名やら何やらを話していたが何一つ耳に入らなかった。   そして、気がついてみればここにいた。 彼にとって全く知らない場所ではあったが今の彼には都合のいい場所だったようだ。 後悔。途方。 悲しみ。 いや、そんな生易しいはずがない。 言葉にならない感情が彼を支配しているのだろう。   「あー…俺も死のうか…」   呟きはあっさりしたもので、しかし全ての結論のように思えた。 最愛の人はもういない。 なら、自分もあちら側へ行けばまた会えるだろう、と。 全く、冷静に考えればあまりに都合がよくてありがちな答えだと思う。 だが彼にしてみれば全て現実で、どうしようもないことだったのだ。 と、ここでまた新たな人物が現れた。 まだおさなさが残る少女だ。 いつからいたのか…少女はうずくまる彼の前に立っていた。   「へぇ~…」   少女が言葉を漏らすと彼は顔をあげた。   瞬間、彼の動きは停止した   いや、無理もないというべきか。少女は彼と目が合うとふっと微笑んだ。 少女は美しい。この世のものとは思えないほど 長い黒髪は優雅。 浮かべてる微笑みは妖麗。 月明かりはその時だけスポットライトのように少女を照らし出し、その姿は幻想的でさえある。まるで……   「ねぇ。おじさんそんなに死にたいの?」   天使のように。
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