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「ねぇ、おじさんそんなに死にたいの?」
少女が私に何か言っている。
…それにしても美しい少女だ。
歳は…今年高校2年生になった娘と同じくらいだろうか。
けれど、娘とは明らかに違う。
おさなげを残しながらも彼女からは女性としての気品を感じるのだ。
「ねぇ、おじさんってば聞いてる?」
じれたように少女は私の目の前で手をヒラヒラと振った。
はっと我に返る。
なんというか…少女に見とれていたようだ。
そういえば、さっき彼女は何と言ったのか…
「ごめんね。ちょっと考え事してて聞こえなかったよ」
申し訳ない、と言うと少女はわざとらしいため息をついて
「いいわ。じゃあもう一度言ってあげる。」
と言って顔をずいっと近づけた。
吐息と吐息がかかる距離。
近くで見ると彼女の肌は透き通るように白い。その色はまるで人形のようで整った顔立ちを一層際立たせている。
…それにしても、こんな若い娘がこんな人気のない場所でこんなオヤジに声をかけるなんて……あぁ、つまりこれはそういう誘いなのだろうか。
「すまないが…。お金は持ってないよ」
「ん?何の…。あぁ、そういうことね」
少女が頷く。だが、
「でも、違うんだ。確かに秘め事めいたことではあるけど全く違う。」
と、語るように否定した。
「もう一度言うわね」
そう言って少女は再び顔を寄せ私の目を見た。
目と目が合う。
ー少女は、私の目を見つめている。
少女の目は赤い
ー私は、呼吸すら忘れてその瞳に魅入られている。
見てはいけない。けれど、視線が離れない
ー体は、動きを止め
妖々と光る赤い目
ーただ、聞こえる少女の声だけが酷く鮮明。
「おじさん。あなたそんなに死にたいの?」
ー瞬間、時が止まったのかと錯覚した。
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