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万琴(マコト)さんはよく俺の右手を繋いでくれる。
俺の右手を繋ぐのなら、必然的に万琴さんは左手を繋ぐことになる。
本当はお互い逆の手を繋いで、利き手は空けておいた方がいいんだけど、万琴さんは必ず利き手の左手を出してくる。
手を繋ぐことでも幸せだと思えた。
俺と万琴さんはそんな小さな幸せを、湖に張った薄い薄い氷を勢いよく両足で踏み割るような真似をして壊してしまった。
粉々に割れたものは元の姿にはけして戻らない。
一度疑いを持った心は、猜疑心を知らなかった頃には戻れない。
「ただいま帰りました~」
今日は取引先から直帰していいから、定時よりちょっと早く帰れて嬉しい。
その分、万琴さんと一緒にいられるしね♪
家の中は人の気配はするけど凄く静かで、変に居心地が悪い。
空気も家の中にこもっているような感じがして、いつもの快適な家じゃない気がした。
玄関を見ると、俺と万琴さん以外の靴が二足。
お客さんかな?
二足とも履き潰されたスニーカーで、忙しく動き回る業者さんを呼んだのかと思ったけど、作業の音は何も聞こえない。
作業は終わって料金の明細をもらっているとか?
足音を立てるのも悪い気がして、そっと自室に向かう。
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