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腕に出来た赤い三筋の傷から血を流し、夏樹は開け放たれた戸口を凝視した。視線の先で、鴨居に手を掛け立つ長身の男はククッと笑った。
「俺より先に飛び込みやがって」
筋肉隆々の長身の男は身体を少し屈めて鴨居を避け部屋に入ってきた。
「そのチビ、車のドア開けた瞬間、俺より先に飛び出して行きやがった。俺の頭ジャンプ台にしてな」
「滉くん……」
胸元を両手で隠す美夕は、滉を見上げ掠れる声を漏らした。
Tシャツにジーンズというシンプルなスタイルだが、上半身の逞しさが際立つ。
入って来た瞬間、滉のオーラが部屋の空気を圧倒した。
空気が変わった。
「な……、なんだ、おまえ……」
驚きのあまりそれ以上の言葉が出ない夏樹に、滉はハハと乾いた声で笑った。
「見たままだよ。お前のドブみてえに汚ねえ欲望をぶっ壊しに来たんだよ」
静かだが、冷たく低い声は聞くものを震え上がらせるくらいのドスが効いていた。
人は、怒り心頭に達した時、怒鳴ったりしないのだということを、滉の声が物語っていた。
爆発寸前の、不気味な静けさとも言えた。
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