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滉の纏うオーラに呑み込まれたかのように黙り込む夏樹は、情けない格好のまま後退りする。
身体を強張らせる美夕の白い足に茶トラの猫が愛しげに擦り寄った。
ゴロゴロと言いながら何度も頭を擦り付ける小さな猫に、美夕の目から涙が溢れた。
もうあとほんの僅かで、心が崩壊するところだった。
この子が、絶望の沼に沈んでいく心を引き揚げてくれた。
「おいで、ようくん」
片手で胸を隠し、もう片方の手を猫に伸ばした時、身体全体にフワッと何かが被せられた。
滉のレザーブルゾンだった。
大きな黒いブルゾンは美夕の身体をスッポリと覆う。
美夕の鼻先を、胸を擽る香りが掠めた。
革の香りに混じって滉の香りがした。
ミシと畳が軋む音がし、美夕の視界に滉の足が映り込んだ。
その足がピタリと美夕の前で止まる。
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