諦観の沼に差した光

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ーー美夕!  声が聞こえた気がした。  愛してやまないあの人の、優しく甘い声を。  幻聴?  美夕が目を開けたのと、襖が乱暴に開き、何かが美夕と夏樹の間に飛び込んで来るのはほぼ同時だった。 「なっ!?」  夏樹の手から飛んだ注射器が、畳の床に転がる。 「よう……くん」  美夕の目の前に、茶トラの猫がいた。 夏樹に向かって毛を逆立てて飛びかからんばかりに唸っていた。
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