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天蜘蛛
それは骨まで凍りつくような寒さの、一月の話。
天気は快晴で、日の光を浴びているにも関わらず――
街は冬特有の、カラッとした寒さに包まれていた。
――仕事場、事務所の中。
私はスーツ姿で、這い寄ってくる寒さに耐えていた。
他でもない先輩が、コタツで暖まりながら蕎麦を啜っているのを眺めながら。
初めて見た時も思ったけど……この異様な空間は何なんだろう。
デスクの並んだその部屋の一角には、なぜか畳が設置されていて――
こたつだけではなく、テレビ、ストーブまで完備している。
室内の一部が完全に個人的空間と化していることにも。
青いジャージを着てコタツでそばを啜っている先輩にも。異を唱える者は誰もいない。
少なくとも、ここで立っている私以外には、誰も。
「もう少し待っとってね。すぐ食べ終わるけぇ」
なぜなら、この部署にいるのは先輩と私の二人だけだから。
……寒い。そして羨ましい。
暖房が効いている室内とはいえ、ドアの周りにはまだ冷気が残っていた。
先輩はぬくぬくと、コタツの中でそばを堪能している。
まるで幸福度がそのまま可視化されているかのようだった。
この何とも表しがたい温度差に、呟かずにはいられない。
「……なにやってんだろ私――」
私の仕事は公務員だ。
公務員だったはず、なのだが。
一体どうして、こんなことになったのだろう。
「寒いなぁ……」
今年の初め、一月は――
珍しいことに、雨も雪も降らないまま、月の半分を迎えようとしていた。
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