天蜘蛛

2/16
前へ
/119ページ
次へ
 事の発端は、年が明けた直後。昨日のお昼前のことで。  入って一年の時が経ち、職場でのコミュニケーションの取り方にも慣れて――  互いに趣味について話せる程度には場に馴染んだ中での、上司からの下知だった。 「異動!? ……あやしか?」 「うん、そう。『怪し課』」  いきなり聞いたことのない部署へと、配属を変えられたのだ。  市民課や、生活課なら分かる。  だけど、怪し課とは。怪しってなんだ。 「怪し課なんて部署、聞いた事がないんですけど……」 「一応は、ちゃんとした部署なんだけどね」  “一応は”と補足が入っている時点で、ちゃんとしてないのでは。  しかも、その部署の業務内容は――妖怪を元の住処へと返すことらしい。  ――唖然とした。悪い冗談だと思った。  年度途中の異動は無いと聞いていたから尚更だった。 「“一応は”って……」  そんな訳のわからない課へと異動だなんて。  これが俗に言う、職場いじめというやつだろうか。  悲観している私に、上司は無情にも説明を再開する。  異動の宣告を下した上司が言うには――  どうやら私には、少しだが妖怪を見る力があるらしい。  そんな馬鹿な……。 「私、妖怪なんて見たことないんですけど」
/119ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加