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理由を聞くと就活に専念したいからだと言われた。
でもそれは表向きの理由だった。
俺と別れた後すぐに他の男と歩いてる姿を目撃した。
その日の夜に彼女に電話をかけた。
「今日男と歩いてる姿見たけどどういうこと?」
『……ただの友達だけど』
不自然な間からただの友達ではないことは確認できた。
「…はっきり言ってくれたらよかったのに。他に好きな奴ができたって」
『………』
俺の言葉に黙り込む。
しばらく無言が続いた後、電話越しに男の声が聞こえてきた。
『風呂上がったよ。……誰と電話してんの?』
『……っなんでもない』
男の問いかけに彼女の焦る声が聞こえる。
『もしかして元カレ?』
『……!ちが…』
『ちょっと貸せよ。もしもし?元カレさん?』
電話口から低い男の声が聞こえる。
「……なにか?」
『もう別れてんだから電話してくんなよ。つーかあんたさ、なんで自分が振られたか知ってる?誕生日や記念日もくれるのは花だけで高価なプレゼントもなければお洒落なお店にも連れて行ってくれないって愚痴ってたぜ。ケチでつまらない男だって』
「………!」
男から聞かされた彼女の本音に息を呑んだ。
…なんだよそれ。
最初に花をプレゼントした時に見た、嬉しそうに顔を綻ばせる彼女の姿を思い出す。
あの笑顔が見たくていつも花を贈り続けた。
ありったけの想いを込めて。
それなのに…本心では喜んでいなかったなんて。
『あーあ。お前が電話してこなきゃこんな話知らずに済んだのに。お前を傷つけないようにってせっかく就活に専念するって理由で別れてやったのにな?まさか飽きられて捨てられたなんて。可哀想な奴。もう二度と連絡してくるなよ』
そう言って切られた電話。
怒りよりも虚しさが胸に広がっていった。
気づいたら俺は花屋の前にいた。
店先の花を眺めていた。
「緒方さん。今日はどうされたんですか?」
俺の姿に気付き店の中から白石さんがやってくる。
「大切な人へのプレゼントですか?」
いつものように尋ねられる。
俺は首を静かに横に振った。
「……大切な人は、他の男に奪われちゃいました」
そう伝えると白石さんがはっと目を見開く。
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