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「俺…つまんねぇ人間みたいです。馬鹿のひとつ覚えみたいに花買ってプレゼントして…、あいつが喜んでると勘違いして…あいつは全然望んでいなかったのに……」
「………」
「…本当は高価なプレゼントや洒落た店を望んでたみたいです。喜ぶふりしてずっと我慢してたみたいです。俺、女心なんもわかってないですよね。そりゃあ振られても仕方ないですよね」
ポツリポツリと語る俺の言葉を白石さんは静かに聞いてくれていた。
「…なんかすみません。いきなり店に来てこんな話聞かせてしまって…」
「……私だったら、どんなに高価なプレゼントやお洒落なお店より…お花が1番嬉しいです」
「……え?」
「あ…お花屋だからお花が好きっていうのもありますが…その人を想って一生懸命選んだ花はとても素敵だと思います。…私は、そんな緒方さんを見てきたから。もしもその方からも緒方さんが一生懸命花を選ぶ姿が見えていたなら、きっと私と同じように感じていたと思います」
「………」
白石さんから掛けられた優しい言葉に鼻の奥がつんとなる。
立ち竦み黙り込む俺に、白石さんが「ちょっと待っててください」と告げ店の中に引っ込む。
しばらくして店の外に出てきた白石さんは俺に近付くと、
「これ…緒方さんに」
そう言って俺の目の前に何かを差し出してきた。
それはひまわりの花束だった。
「これ…俺に…?」
こくんと頷く白石さん。
俺はゆっくりと黄色い花束を受け取った。
「サンリッチレモンというひまわりです。花言葉は…『あなたはすばらしい』」
「………っ!」
その言葉を聞いた瞬間、胸が熱くなって白石さんの顔がみるみる内にぼやけていく。
胸の中にあるたくさんのひまわりの花に、ポタポタと涙が零れ落ちた。
あなたはすばらしい
そんなこと今まで誰からも言われたことなかった。
その言葉は、花が枯れた後もずっと心に残り続けた。
あれから数ヶ月後。
俺は再び花屋を訪れた。
「緒方さん…?お久しぶりですね。今日はどうされましたか?」
「大切な人へ贈る花を」
1番初めに白石さんに話しかけた時と同じような台詞を口にした。
「大切な人…新しい恋人が出来たんですか?よかったですね…おめでとうございます」
「赤い薔薇を三本、ラッピングしてくれませんか?」
「かしこまりました。少々お待ちください」
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