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序章
雪が降りそう。
そう思った。
もうすぐ桜が咲く季節だというのに、今朝見た天気予報では夕方から雪が降るらしいと言っていた。
でも、まだ日が高いのに空気はとても冷たく、今すぐにでも降り出しそうだった。
休日、近くのショッピングモールに買い物に来た私は、早く目的の店に入って温まろうと足早に歩いていると、通りかかったゲームセンターの店頭にあるクレーンゲームの前でぬいぐるみを持っている高校生くらいの女の子が視界に入った。
「いーらない!」
少女は、そう言って持っていたぬいぐるみをそのゲームの前に置くとその場を去ろうとした。
「待って!」
思わず、そう呼び止めてしまった。
すると少女は立ち止まって振り返り、不思議そうに私を見た。
「この子、置いて行っちゃうの? あなたが取ったんじゃないの?」
「確かにそうだけど……、なんか違ったからいらない」
「えっ……」
私はそんな少女の言葉になんて返したらいいか解らず、言葉に詰まってしまった。
だって、取ったのにいらないって……。
「欲しいならお姉さんにあげるよ。私、急いでるから。じゃあね。」
少女は明るい笑顔を見せると手を振って走り去ってしまった。
私は、置き去りにされたその子をそっと手に取ってみた。
欲しかった訳ではない。
置いて行かれたのが可哀想に思えてしまったから。
その子は首に真っ赤なリボンをつけた可愛らしい真っ白なうさぎのぬいぐるみだった。
「いらないだって。そんな事言われたら悲しいよね?」
私はその子を抱きしめ、目的の店へと向かった。
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