第9話 『生きている』という事

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私がかすみ草を買って来てから1週間が過ぎた頃、家に帰るとマリーが溶けていて、驚愕した。 「マリー!?」 私は何があったのか解らず、只々、必死にマリーの名前を呼び続けた。 そして、ようやくマリーが元の姿を取り戻すと、泣きべそをかきながら、私の顔を見上げた。 「さきぃ……、ばらがぁ……」 マリーにそう言われて花瓶のバラを見ると、3輪あったうちの2輪に変化がみられた。 もうそろそろかなと思ってはいたけれど、どうやらその2輪はもう終わりの時が来たようだった。 「マリー、もしかして、バラが元気なくなったから、泣いてたの?」 「……うん……。いっぱいおはなししても、どんどんげんきがなくなって……、どうなっちゃうの? しんじゃったりしない?」 大きな朱の瞳に涙をいっぱいに浮かべているマリー……。 「マリー、あのね……、お花の命は短いんだ。こうやって切って売っているお花は、種類にもよるし状況にもよるけど、だいたい1週間くらいかなぁ。お花が死んじゃうっていう表現は使った事なかったから、マリーに言われて気づいたけど……、そうだね、さよならしなきゃならないから、似たようなものかもしれないね」 「やっぱり……、しんじゃうんだ……」 マリーの瞳から、大きな涙の粒が、ぽとりと机の上に落ちた。 「死ぬっていうのとは、ちょっと違うかな。確かにこうやって切ってあるお花とはさよならだけど、こういうお花はね、みんな元の木があって、毎年綺麗なお花をたくさん咲かせるの。ひとつのお花が咲いている時期は短いけど、そうやってずっと続いていくんだよ」 「……ずっと……?」 「うん。だからね、私はいつもこういう買ったお花が咲き終わってしまった時、『ありがとう』って言ってさよならするんだ」 マリーはじっと私の顔を見つめているが、どうやら涙は止まったようだった。 「まり……、よくわかんないけど、かなしいこと……じゃ……ないってこと……?」 「うん、そうだね。少し寂しいとは思うけど、悲しまなくていいんだよ。マリーは優しいね」 私が笑顔でそう言って、マリーの頭を撫でてあげると、マリーはやっと笑顔を見せてくれた。 「わかった! ありがとう、さき!」 マリーはぴょんと飛び跳ねて机から飛び降り、下に落ちている赤い花びらを拾った。 「しんじゃうんじゃなくて、よかった」 本当に嬉しそうにそっとそれを抱きしめるマリー。 「そうだ、マリー。今度は切り花じゃなくて、一緒に何かお花を育ててみない? そうしたら植物の事、少し解ると思うよ!」 「おはなを、そだてる?」 不思議そうに目をぱちくりとさせるマリーに私は微笑んだ。 「うん」 「……まりも……できる?」 「勿論だよ。一緒にやってみない?」 私がそう言うと、マリーの表情がぱぁっと明るくなった。 「うん! やってみる!」 こうして、マリーと私は何かの花を育てる事にした。 あとでマリーに話を聞いたのだけれど、マリーが住んでいた場所には植物も動物もいなかったらしい。 動いているのはマリーたち『うさぎ』だけ。 花や動物の名前に少しは知識があるみたいだったけれど、そこまで詳しくはなくて、なんだか不思議な感じだった。
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