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第7話 八重桜
祖母の葬儀が終わり、初七日迄京都にいた私たち家族は、みんな一緒に東京へ戻り、それぞれの住む場所へと帰った。
マリーを親と妹に見つからないようにするのは大変だったが、マリーに私の腕時計を貸してあげたら、退屈せずにバッグの中で大人しくずっと時計を見て居てくれて、助かった。
「ただいまー」
自分の疲れた声が、自分の部屋に虚しく響く。
急いで部屋の中に入って、真っ先にマリーを出してあげた。
「ごめんね、マリー。静かにしててくれて、ありがとう。もう大丈夫だよ」
すると、マリーは私の腕時計をしっかりと抱えたまま、周りをくるっと見回した。
「さきのおうちだ!」
「うん。やっと帰ってこれた」
「これ、ありがとう! すごーくたのしかった!」
マリーは笑顔で抱えていた私の腕時計を返してくれた。
「こんなのもので喜んでくれてありがとう。こんなものしかなくてごめんね」
「なんであやまるの? とけい、おもしろいよ!」
本当にこんなものしかなかった事が申し訳ない気分でいっぱいだというのに、マリーは本当に時計が好きなようで……。
でも、もっと楽しいものが沢山あるって事、これからいろいろ教えてあげようと思った。
人間の事をいろいろ覚えたり手伝ったりするのが修行らしいから、私に出来る事は出来るだけしてあげたい。
マリーのクッションとタオルをバッグの中から取り出し、いつも置いていた机の上に置き、私はマリーに少し待っていて貰って荷物の片付けを始めた。
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