第10話 花を育てる

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第10話 花を育てる

翌日、私は仕事から帰るとマリーに少し待っていて貰って、花の種を買いに行った。 どんな花がいいかいろいろ悩んだけれど、ふと目についたのが、ワイルドストロベリーという小さな苺を育てられるキットだった。 それは小さな植木鉢と種と土がセットになっていて、他に何も買わなくてもすぐに育てられるものだった。 花だけではなくて実も楽しめるし、花も実も小さい物だったから、マリーに丁度いいと思ってそれを買って急いで帰った。 「ただいまー! マリー、おみやげだよ!」 私は、帰るとすぐにマリーにそのキットを見せた。 「おはな? はこにはいってるの?」 マリーは私が目の前に置いた箱の周りをくるりと回って箱を眺めた。 箱にはワイルドストロベリーの花と実がついている絵が描かれている。 「うん。まだお花はないけどね、この中にこのお花を育てる為のものが全部入ってるんだ」 「このおはな、かわいいね。まりのいろだね! みは、せーふくのいろ!」 マリーに嬉しそうにそう言われ、初めて気づいた。 確かに、花は白だし、実は赤で……。 「そうだね、ほんとだ、気づかなかった」 「ありがとう、さき! まり、うれしい!」 「どういたしまして」 とても嬉しそうに笑うマリーはいつ見ても本当に可愛い。 「明日は、私、お休みだから、一緒に種を蒔こう! 午前中の方がいいらしいから、マリー、朝、起きれる?」 「うん! じかんがわかってれば、おきれるよ!」 「じゃ、8時くらいにしようかな。一緒にご飯食べてから」 「わかった! たのしみ!」 そう言ったマリーの視線がパッと止まった。 その先を見てみると花瓶が……。 「あぁ、バラはもう終わりだね」 最後に残っていた1輪のバラを見るマリーは少し寂しげで、でも、昨日みたいに泣いたりはしていなかった。 「さよならしたばらは、どこにいくの?」 「それはね……」 私は答えに悩んでしまった。 昨日の2輪のバラは、今朝、マリーが寝ている間にそっとさよならして、捨てていた。 捨てると言ったらマリーは悲しむだろうか……。 「切ってあるお花はそのまま取っておく事は出来ないんだ。だから……」 「さき……? なにか、かなしいの?」 「え?」 気づくと、マリーは心配そうに私を見上げていた。 「おはなをそだてたら、まりにもわかる?」 「……そうだね、植物がどんなものか解れば」 「じゃ、まだ、きかない。まり、じぶんでおぼえる。だから、さき、わらって。」 必死にそう言うマリーに、感心してしまった。 私がどう話そうか悩んでいたから……? 悲しそうな顔をしていたつもりはなかったけれど、マリーにそう言われ、気づかされた。 「ありがとう、マリー。マリーは本当に優しいね」 私はマリーをそっと抱きしめ、頭を撫でてあげた。 「かすみ草だけじゃ寂しいから、何か他のお花買ってこようか?」 まだ元気なかすみ草を見て、私はそうマリーに問いかけた。 「だいじょぶだよ。たね、あるから」 「でも、種は、蒔いたからってすぐに花は咲かないんだよ。何日かかるか解らないけど、葉っぱが1枚ずつ増えていって、ある程度大きくなってからお花が咲くの」 「そっか。まだよくわかんないけど、そういうのまってるのもたのしそう! まりたちのおうちのまわりにさいてたおはなは、さいしょからずっとかわらないまんまそこにあったから、そういうのわかってうれしい! ありがとう、さき!」 いつも思うけど、マリーは知らない事を知るのがとても嬉しいみたいだった。 だから、余計、もっと沢山、色々な事を教えてあげたいと思ってしまう。
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