末期症状の僕と終末期の君

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末期症状の僕と終末期の君

人の言葉には嘘が混ざる。嘘はノイズだ。ニュースも、政治家の発言も、家族すら嘘をつく。嘘つきの世界で僕は鼓膜を破り耳を塞ぐ。嘘で脳が揺さぶられては嘔吐する真実に誰もが耳を塞ぐから。 鼓膜を破り引きちぎった耳に詰めたシリコン樹脂。それでも聴こえるノイズはどこから? 白い部屋。静謐な部屋は消音、防音ありとあらゆる音を拒絶し、足音すら消し去って。それでも聴こえる。聞こえるんだ今日も。自分の声すら聴こえないのに、このノイズはいったいどこから聴こえるんだ? 生命の心は嘘で出来てる。嘘は毒。心臓が運ぶ。蠢くすべてに拍動が宿り嘘を運んでは毒素が回る。嘘つきの世界で心臓を貫こうとしたって高度な医療が防いでしまう。嘘の毒を消し去る薬は無いというのに尊厳ある死すら認められず。拍動が止まった瞬間が解放。そのことに気づくものが少ないままに世界は回り、日常が過ぎていく。 音で聴く僕と拍動で識る君 音が末期なら拍動で感じる君は終末期 二人で閉ざした世界を開いたふりして寄り添ったつもりで傷をなめる そのままで  そのままで   鼓膜を破っても鳴りやまない音を    聞こえないふりをして解放を待つ   君と   僕と 終わらせるために
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