番外編 -欲-

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 第二遊撃隊に興味がないわけではない。ずっとこのまま、ガキの遊びの延長のような不安定な集まりの中にいられるはずもなく、遠からず、何かを選択しなければならない。たとえば、極道の世界に片足を突っ込んだ生活から足を洗い、せめてまともなアルバイトを始めるとか。  しかし、実際に動き始める自分の姿は想像できず、もう少しこのままでもいいのではないかと考える先に、やはり南郷の誘いが立ちはだかる。  多分自分は、理由を欲しがっているのだと、加藤は思う。出世したいとか、金・女が欲しいとか。なんでもいいから、選択する理由が欲しい――。  そういう意味では、欲望がはっきりしている小野寺を、加藤は少しだけ羨ましいとも感じるのだ。  南郷がいる応接室のドアの前まで来ると、中からガタッと物音がした。それと、話し声。  誰かと話し込んでいる気配に、ノックするのをためらったが、挨拶だけでもしておけば後々何か言われることもないだろうと、思いきってノックをする。数秒の間を置いて、南郷の声が短く応じた。 「失礼します――」  ドアを開けた加藤の目に飛び込んできたのは、予想もしなかった光景だった。  南郷が、中嶋に迫っていた。  大きな体で威圧するように、中嶋を壁に追い詰め、あごを掴み上げて顔を寄せている。今まさにキスをしようとしているように見え、加藤は驚きのあまり表情を変えることすらできず、その場に立ち尽くす。     
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