番外編 拍手お礼9

2/8
3452人が本棚に入れています
本棚に追加
/700ページ
 和彦は、自分の胸元にへばりついている熱の正体を見下ろす。カーテンの隙間から差し込んでくる青白い月明かりに照れされているのは、妙にあどけない寝顔を見せている千尋だ。和彦が眠っている間に、ベッドに潜り込んできたようだ。  和彦の体温にすがらずにはいられないほど、室内が寒いというわけではないだろう。むしろ、毛布一枚で眠ってもいいほど、暖房はよく効いている。  体温の高い千尋が触れている部分から汗ばみそうで、たまらず和彦は身じろぎ、慎重にベッドから抜け出す。サイドテーブルに置いたペットボトルの水を飲んでから、喉の渇きを癒す。  ほっと息を吐き出してから、本来は千尋が使っているはずのベッドに移動しようとしたが、月明かりに誘われるように和彦は窓に歩み寄った。  この別荘の周囲に建物はない。外灯すらもないため、月が出ていない夜は本当に真っ暗で、何も見えないだろう。しかし今は、月明かりと、その月明かりに照らされる積もった雪が、闇の中でほの白い光を放っているようだ。  こんな月明かりの下、出歩いてみたらどんな気分がするのだろうか。  ふっとそんなことを考えた和彦は、子供じみた好奇心を抑えることはできなかった。旅先で、少しだけ気分が開放的になっているというのもある。     
/700ページ

最初のコメントを投稿しよう!