番外編 拍手お礼10

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 気が緩んでいるというつもりはなく、長嶺組にとって差し迫った問題が起こっていない証拠として、むしろ好ましい。  それとも、佐伯和彦という存在が影響を与えているのだろうかと、靴を脱ぎながら三田村は考えた。  和彦は、きれいな容姿と端正な身のこなしの持ち主で、そんな存在が、まるで風のように本宅の中をスウッと渡っていく姿は、なんとも言えない余韻を組員たちに与える。ヤクザが生活する空間において明らかに異質だが、異物ではない。違う存在なのに、妙に本宅に――ヤクザの世界に馴染んでいる。  三田村は半ば条件反射のように和彦の姿を探すが、応接間に向かうまでの間に、その姿を見かけることはなかった。すでにもう、自宅マンションに戻って休んでいるのかもしれない。  少しだけ残念な気持ちになりながらも、もちろん三田村は、そんな気持ちを一切表には出さない。  ドアをノックして名乗ると、中から応じる声がした。 「――失礼します」  ドアを開けて一礼する。頭を上げた瞬間、かしこまる三田村とは対照的に、寛いだ様子でソファに腰掛けた賢吾と目が合った。  一目見て感じたが、どうやら賢吾の機嫌はいいようだ。わずかに肩から力を抜いた三田村は、指先で呼ばれるまま、テーブルを挟んで賢吾の向かいに座った。     
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