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からかうように和彦が言い、ちらりと笑みをこぼす。本人に自覚はあるのか、ドキリとするほど艶かしい表情だ。だが、雪を見てはしゃいでいるときは、きっと違う表情を見せていたのだろう。
三田村が見たかったのは、そんな和彦の姿だ。
「……俺が雪と戯れていたら、即座に通報されるな」
ここで奇妙な声が上がり、何事かと思って視線を向けた先で、笠野が必死に笑いを堪えていた。どうやら、三田村と和彦の会話を聞いていたらしい。そして、和彦まで肩を震わせて笑っている。
「先生……」
「想像したら、おかしくて」
とうとう声を上げて笑い始めた和彦を、三田村は目を細めて見つめる。そんなことができるはずもないのだが、むしょうに、今この場で和彦を抱き締めたくなった。他愛ない会話を交わして、おもしろみのない自分の話でこうして笑ってくれるということが、たまらなく嬉しいのだ。
大事な人と温かな時間を持ててようやく、新年を迎えたと実感できた。今年も、組と賢吾のために尽くしながら、この人を守っていこうと心の底から思う。
「先生、七草粥を食べませんか?」
和彦が落ち着いたところで、さりげなく笠野が声をかける。疎い三田村とは違い、和彦はすぐにピンときたようだ。ああ、と声を洩らした。
「今日は、一月七日だったな」
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