番外編 拍手お礼15

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 空いているデスクにつくと、さっそく受話器を取り上げる。現在は賢吾の側近として動くことが多い三田村だが、本来は、若頭補佐という肩書きが示す通り、あくまで若頭の下に就いて動くものなのだ。いくら賢吾に目をかけてもらっているとはいえ、いい加減な仕事をするわけにはいかない。  縄張り内に点在している各事務所に連絡を取り、若頭のスケジュールの確認をする。細かな指示を与える一方で、自分の手帳にもメモを取る。  電話を切るとすぐに、側に控えている組員に銀行に行くよう告げた。 「今日、明日と義理場が重なっている。若頭が参列するから、喪服の準備もしておいてくれ」 「……確か明日は、結婚披露宴の出席も……」 「そっちは、俺が祝儀を持っていく。こんな不景気な面下げて行って、相手には申し訳ないがな」  三田村としては冗談を言ったつもりはないのだが、組員には清々しいほど思いきり笑われた。  まず一つ仕事を片付けてから、三田村はパソコンの電源を入れる。泥臭い仕事ばかりをしていた若い頃、まさか自分が、組員たちに指示を与える立場になり、一端の会社員のようにパソコンを使って仕事をすることになるとは、考えもしなかった。自分という存在が爪弾きにされない世界に身を置けるなら、それだけでいいと思っていたのだ。     
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