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車の出入りが激しいコンビニの駐車場から、ある大きなビルの正面玄関がよく見える車道脇へと場所を移し、一旦車のエンジンを切る。途端に、外の冷たい空気がじわじわと車内へと侵入してきた。
寒い思いをして、忙しい刑事が平日の昼間から何をしているのか――。
自分の行動を振り返り、鷹津は皮肉っぽく唇を歪める。割りに合うか合わないかと自問すれば、迷うことなく、十分な見返りはあると即答できた。
性質の悪いオンナを思う存分抱き、遠慮ない憎まれ口を叩かれるのだ。それだけで、彩りも潤いもない鷹津の生活はマシになってくる。
だからこそ、その性質の悪いオンナ――佐伯が気にかけている男の存在は、目障りだった。もっと率直に言うなら、胸糞が悪い。
佐伯から聞かされた〈初めての男〉の話は、鮮烈だった。ひどく興奮したと同時に、どす黒い感情に胸を突き破られそうだった。そして、そういった感情に翻弄される自分が、新鮮でもあった。
佐伯の頼み事を素直に聞く気になったのは、鷹津自身、興味があったからだ。
高校生だった佐伯を最初に抱いた、里見という男に。
十二時となり、各ビルからどっと人が出てくる。目的の人物の姿を見逃すまいと、瞬きすら忘れて目を凝らす。そんな鷹津の視界に、一人の男の姿が飛び込んできた。
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