番外編 拍手お礼16

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 ビジネス街の中にあって、スーツ姿の男など掃いて捨てるほどいるが、その男は、嫌になるほど鷹津の目を惹いた。あらかじめ写真で顔を把握していたというのもあるが、それだけが理由ではない。 「――……なるほど、この男が……」  ビルから出てきた男を里見と確信して、無意識に鷹津は呟く。  里見は、どこか学者然とした雰囲気が漂っている男だった。気難しげというわけではなく、見るからに知的だ。顔立ちそのものも悪くなく、同僚らしい男と話す口元には穏やかな笑みが浮かんでおり、それが里見をより紳士的に見せている。  身長は高めで、スーツの上からでもわかるが、不摂生とは無縁そうな体つきをしている。四十二歳としては、十分すぎるほど魅力的な外見の持ち主だ。  だが、と鷹津は心の中で付け加える。  年齢が近い男に対して僻んでいるわけではなく、刑事の勘として、鷹津は里見に何か得体の知れないものを感じていた。  佐伯も言っていたが、里見はしたたかに官僚の世界で生きてきて、実力者である佐伯の父親からも目をかけられている人物だ。ただ有能というだけではないだろう。  なんといっても、あんな性質の悪い〈オンナ〉の素地を作った男だ。     
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