番外編 拍手お礼16

7/7
3451人が本棚に入れています
本棚に追加
/700ページ
 このとき鷹津は、組み敷いた佐伯の体の感触を思い出していた。掠れた悦びの声が耳元に蘇り、ゾクゾクするような欲望の疼きを覚える。今の佐伯とのセックスがいかに最高か、里見は知らないのだ。そう考えると、食べたばかりの昼メシを押し上げてくる胸の悪さが、少しだけ紛れるようだ。  里見が車の横を通り過ぎると、後ろ姿をバックミラーで見送る。調査事務所である程度のことは調べさせたが、今日からは鷹津自身が動いて、より詳細な里見の行動パターンなどを把握するつもりだ。  里見の存在を知らされたことで、鷹津は佐伯に対して切り札を握った。長嶺も知らない、佐伯の秘密だ。その秘密をたっぷり愛でたい心境だが、やはりどうしても、里見の存在は気に障る。  こういう気持ちをなんというか鷹津は知っているが、認めるわけにはいかなかった。まるでガキだと、自分自身に唾棄したい気持ちになるからだ。  それでも鷹津は、つい口元を緩めていた。もし里見の弱みや汚い部分を調べ上げ、それを佐伯に報告したとき、どんな顔をするだろうかと想像すると、加虐的な興奮が湧き起こるのだ。きつい眼差しで鷹津を見据えてくるか、それとも取り澄ました表情を崩さないか――。  佐伯のことを考えていると、それだけで鷹津は楽しい。自分の薄汚れた刑事生活が、とてつもなく価値あるもののように思えてくる。  だからこそ認めざるをえない。  性質の悪い〈オンナ〉に、自分は心底ハマってしまったのだと。
/700ページ

最初のコメントを投稿しよう!