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「はい。組長のご指示通り、わたしが買ったものだと言って、先生にお渡ししました」
「それで?」
久保はゴクリと喉を鳴らし、必死に言葉を考える。組長を相手に無礼なことを言ってはいけないと、考えれば考えるほど、頭の中が真っ白になっていくようだ。
そんな久保の様子に気づいたのか、組長は軽く肩を叩いてきた。
「しっかりしろ。――先生は、今朝はコーヒーを淹れてくれたのか?」
「は、はいっ。組長からお預かりした豆で、淹れていただきました」
慣れない敬語に危うく舌を噛みそうになる。そんな久保の報告を受け、組長はしたり顔で頷くと、こう問いかけてきた。
「美味かったか?」
思いがけない質問に戸惑いながらも、久保は正直に答える。
「……美味かった、です。コーヒーの味はよくわからないので、俺の感想なんてアテにならないかもしれませんが……」
「そうか? 笠野は、お前は意外にまともな味覚をしていると言っていたぞ」
一瞬気が緩み、満面の笑みを浮かべかけた久保だが、すぐに表情を引き締める。どうしても、組長に聞いておきたいことがあった。
「組長、お聞きしてもよろしいですか」
「お前に、先生へのコーヒー豆をことづけた理由、か?」
「はい……」
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