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あのときも、鷹津と口づけを交わして別れた。生々しい光景が、ふいに感触とともに蘇り、無意識のうちに和彦は口元に手をやる。
「――車の中で待っていろと言っただろ」
突然、不機嫌そうな声をかけられる。慌てて視線を上げると、片手に二本の缶を持った鷹津がこちらにやってくるところだった。
投げ渡された缶を受けとめた和彦は、缶と鷹津を交互に見てから、ありがたく奢ってもらうことにする。
車に乗るよう促すかと思った鷹津だが、当然のように和彦の隣に立ち、缶を開けた。
和彦は、そんな鷹津の横顔を慎重にうかがっていた。さきほどまで、和彦が放った精を舐めた挙げ句、まるで嫌がらせのように長い口づけをしてきた男は、平然と缶コーヒーを飲んでいる。いまさらながら、よくわからない男だと思った。
すると、前触れもなく鷹津がこちらを見る。
「飲まないのか?」
「……飲む」
「口をすすぎたいだろうから、お茶にしておいてやったぞ」
鷹津の言葉に、和彦は横目で睨みつける。芝居がかったような下卑た笑みで返された。
「嫌な男だ……」
「だが、よく働くいい番犬だろ」
「自分で言うなっ」
和彦はムキになって軽く口をすすいでから、やっとお茶を飲むことができる。火照った体には、冷たいお茶が美味しく感じられた。
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