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鷹津はボトルを床に置くと、佐伯のパンツのポケットを探り、携帯電話を取り出す。表示されている名は、意外性の欠片もなかった。
欲情が渦巻いていた鷹津の胸の内に、さまざまな負の感情を孕んだ塊が生まれる。電話をかけてきた相手――長嶺賢吾を、鷹津は心底嫌っているのだから仕方ない。
嫌ってはいるが、互いに利用できる存在だと認識はしている。その長嶺が、あえてこの時間、わざわざ電話をかけてきたのには、理由があるだろう。一番考えられるのは、鷹津に対する牽制と、脅しだ。
胸糞が悪い、と心の中で呟いて、鷹津は電話に出ていた。
「――自分のオンナが、他の男の腕の中で喘ぎまくっているか、確認したくてかけてきたのか?」
前置きなしの鷹津の挑発に対して、電話の向こうで長嶺は笑った。
『なんだ、もう、済んだのか』
数秒、返事に詰まった時点で、鷹津の負けだ。
「お前のオンナを壊したら、あとでどんな報復があるか、わかったもんじゃないからな」
『ほお。俺のオンナに対してだけは、妙に優しいお前なら、そんなことはしねーだろ』
「……こんなくだらないやり取りがしたくて、電話をかけてきたのか、クソヤクザ」
『先生の電話に出たのはお前だろ。俺は、先生の声が聞きたくて、電話をかけたんだぜ』
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