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中嶋は、総和会と長嶺組との連絡役を任されている。そのことを教えられたとき加藤は、中嶋と長嶺組の繋がりが不思議で仕方なかったが、今ならわかる。この両者を繋ぐのが、車中の電話で話題になっていた医者だ。中嶋は医者と親しく、その医者を、長嶺組が面倒を見ている。
「――しっかり物事を考えている顔をしているな」
唐突に三田村から声をかけられ、加藤は即座に反応できなかった。身構えることもできず、ただ目を丸くする。感情をなくしたかのような、と思えた三田村の顔が、この瞬間笑みめいたものを浮かべたように見えた。
「組に出入りするような若い連中は、命令はしっかり聞くが、それ以外のことは頭の中を素通りしているような顔をするんだ。だからまず、どんな些細なことだろうが、自分の頭でしっかりと噛み砕いて理解しろと教える。そうするうちに、考える癖がつく。そして、〈言外〉ってものを理解する。上からの話は、声に出したものがすべてじゃない。むしろ、そうできないもののほうに重要な意味を含んでいることが多い」
ここで三田村が、自戒するように洩らした。
「うちの組の人間でもないのに、余計なことを言ったな……。最近、若い奴の指導をする機会が多くてな。つい、いつもの調子が出た」
「基本的に三田村さん、面倒見がいいですからね」
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