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もっと気の利いた台詞を言ったり、喜びを表に出すほうがいいのだろうが、あいにく加藤はそこまで器用ではない。ぎこちなく頭を上げるのが精一杯だったが、三田村は気を悪くした様子もなく、早く行けと中嶋のほうを指さす。
もう一度礼を言った加藤は、走って中嶋に追いつく。振り返った中嶋が、ニヤリと笑った。
「あの人、いい人だから、懐くなよ」
「いい人だというのは、なんとなく……」
「デキるヤクザだが、ヤクザらしくないヤクザでもある。――どういう人なのか、そのうちいろいろと耳に入るだろうがな」
意味深な中嶋の言葉が気になったが、加藤の意識は、次の中嶋の言葉に奪われた。
「今のところ、俺が気兼ねなく使えるのは、お前ぐらいしかいないからな。三田村さんの下で働きたいです、なんて言われると、困る」
「困りますか……」
「困るな」
元ホストのヤクザは、女タラシどころか、人タラシだ。加藤は、自分の体温がわずかに上がったことを認識しつつ、ぐっと奥歯を噛み締め、胸の奥から沸き起こったわけのわからない感情の高ぶりを抑える。
「お前の機嫌を取っておくために、ラーメンを奢ってやる」
「……それ、中嶋さんが腹減ってるだけでしょ」
「こういうとき、可愛げのある後輩は、嬉しいです、と言っておけばいいんだよ」
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