番外編 拍手お礼31

2/8
3464人が本棚に入れています
本棚に追加
/700ページ
 腕組みをした澤村が、軽く唸って首を傾げる。和彦のことを、妙な質問をぶつけてきて厄介な、と思っている様子はなく、いつになく理屈っぽい和彦をおもしろがっている節すらある。その証拠に、口元がわずかに緩んでいた。 「見た目によらず、佐伯は情緒に欠けているところがあるよな。季節を、寒いか暖かいかでしか感じないタイプだろ」 「……澤村先生ほど、情緒豊かじゃないからな、ぼくは」 「人間、完璧じゃないほうが、かえってモテるぞ」  澤村の発言こそ、本気で言っているのか、冗談で言っているのか判断がつきにくい。和彦は曖昧に笑って作業に戻ろうとしたが、澤村はさらに続けた。 「人それぞれ事情や考えはあるんだろうけど、俺は少しだけ、わかる気がするんだよな。いや、患者に直接聞いたわけじゃないんだが」 「話したそうだから、聞いてやる。――なんだ?」  パソコンのディスプレイから視線を離さず和彦が促すと、人のデスクに遠慮なく腕をかけ、澤村が身を乗り出してくる。 「前にテレビを観ていて思ったんだ。成人式って、同窓会も兼ねているようなところがあるだろ。進学や就職で普段は地元を離れているけど、成人式には戻ってくる、ってやつ」 「そういう……、ものか?」     
/700ページ

最初のコメントを投稿しよう!