番外編 拍手お礼31

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 軽薄そうな物腰で、女性患者の受けが抜群によくて、悩みなど何もなさそうに見える美容外科医に、こんな一面があるとはと、正直和彦は驚いた。同時に、澤村を見直した。別に、澤村を医師として軽んじていたわけではないが、先輩だと意識することはほとんどなかった。それだけに――。 「気の迷いで、澤村先生をちょっと尊敬しそうになった……」  ぼそりと和彦が洩らすと、澤村は少しだけ考える表情となってから、和彦の首に容赦なく腕を回してくる。  医局にいる他の医師たちが、また二人がじゃれ合っていると、苦笑交じりの視線を向けてきたが、もちろん澤村は気にしていない。 「――そんなやり取りを澤村と、成人の日あたりに交わした記憶がある……」  文庫本のページを捲りながら和彦が話し終えると、人の話を子守唄だとでも思っているのか、うつ伏せの姿勢で枕を抱え込んでいた千尋が、いきなりガバッと頭を上げた。 「それだけっ?」  和彦はムッと唇をへの字に曲げる。 「不満なのか?」 「だって俺、先生の成人式の思い出を聞いたんだよ。それがなんで、今みたいな話になるんだよ。先生と成人式が、直接関わってないじゃん」  寝ているように見えたが、しっかりとこちらの話を聞いていたらしい。和彦は露骨にため息をつくと、文庫本にしおりを挟んで閉じる。 「ぼくは、成人式には出席していない。いろいろと忙しかったんだ」     
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