番外編 拍手お礼31

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 和彦の場合、本当に成人式にはなんの思い出もないのだ。実家から、どうするのかと問われることすらなかった。佐伯家だからこうなのか、それとも、世間の大半――とまではいかなくても、半数ぐらいの家庭はこんなに無関心なものなのか、そう考えることすらしなかった。 「そうは言っても、なんかちょっと、お祝いみたいなこと――」 「興味なかった。別に……会いたい人間がいるわけでもなかったしな。新成人の誰もが、成人式を楽しみにしているわけじゃないし、祝ってもらえるわけでもない。無関心な人間だっているんだ」  少し冷たくなった和彦の口調に気づいたのだろう。枕に顔半分を埋めた千尋が、まるで捨てられた子犬のようないじらしい眼差しを向けてくる。  怒鳴ってやろうかと思ったが、すぐにその気は萎え、和彦は千尋の髪を梳いてやる。 「――……お前は、成人式には出席したのか? まだ二十一だから、成人式なんてつい最近の出来事だろ」  よく聞いてくれたと言わんばかりに、千尋が身を寄せてくる。きっとおもしろい話を聞かせてくれるのだろうなと予感して、和彦は読書の続きを完全に諦めると、文庫本をヘッドボードの上に置いた。     
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