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ただ、物言いたげな表情はしていたらしく、目敏くそれに気づいた千尋が、意味ありげな眼差しを寄越してくる。
「先生もしかして、妬いてる?」
千尋の思いがけない言葉に目を丸くした和彦だが、すぐに苦笑を洩らして茶色の髪をぐしゃぐしゃと掻き乱してやる。
「妬いてほしかったら、もう少し大人になれ。お前はまだまだガキだ」
「いやいや。俺がガキっぽく振る舞うのは、先生の前だけだって。普段は、ピシッと決めてるんだから」
「どうだかな……、と言いたいところだが、長嶺の男は食えないからな。あー、怖い、怖い」
最後の台詞は棒読みで言ってやると、千尋がムキになって反応する。これすら、あえて『ガキっぽく』振る舞っているのだとしたら、長嶺の男は本当に怖い。
和彦は、千尋の頭を撫でてやりながら、ついこんな頼みごとを口にしていた。
「そのうち、お前の成人の日の写真を見せてくれ」
騒いでいた千尋が、一瞬にして大人びた男の顔になり、和彦と額と額を合わせてきた。
「いくらでも見せるよ。俺が生まれた頃からの写真も、全部見て」
「……たくさんあるんだろ? 見終わるまで、時間がかかりそうだな」
「いいじゃん。どれだけかかっても。――先生ずっと、俺と一緒にいるんだし」
長嶺の男が本当に怖いと思えるのは、こんな言葉をさらりと言われたときだ。
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