番外編 拍手お礼32

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「あと、まだ肌寒いんですから、外に出るときは、しっかりと着込んでください。せめて、上着を一枚羽織るとか。――それと、いつでも戸締りには気をつけてください。鍵がかかっていませんでしたよ」 「過保護だな、二神」  軍手を外しながら、縁側から部屋に上がった秋慈の一言に、二神は口を閉じる。つい数時間ほど前に総和会本部で見かけた佐伯和彦と、その彼に向けられていた男たちの眼差しを思い出していた。  総和会の男たちから気遣われる存在は現在、二神が知る限り二人。一人は、佐伯和彦。もう一人は、今二神の目の前にいる、御堂秋慈だ。  ただしこの二人は、抱えた事情も立場もまったく違う。  佐伯和彦は、総和会会長、長嶺組組長という特別な地位に就く男たちのオンナで、一方の御堂秋慈は、総和会〈第一遊撃隊〉隊長という肩書きを持っている。あくまで、肩書きだけ。 「ちょっと待ってろ。手を洗って、コーヒーを淹れてくる」  俺が、と二神は動こうとしたが、すかさず秋慈にイスを示された。こうなると二神は、調教師に命令された犬同然だ。従うしかない。  黙ってイスに腰掛けると、満足した様子で秋慈が部屋を出て行く。その後ろ姿を見送って二神は、もう一度安堵の吐息を洩らした。     
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