番外編 拍手お礼32

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 一時期の秋慈は、外に出ることはおろか、ベッドから起き上がることも難しく、痩せて死人のような顔色をしていた。その最悪の時期を知っている二神としては、週に何度も秋慈のもとに足を運んではいるのだが、元気な姿にやはり胸を熱くしてしまう。同時に、悔しさも噛み締めるのだ。  三十代の若さで秋慈は、当時の総和会会長の片腕となっていた。会長の親戚筋というだけではなく、秋慈自身、痺れるほど有能だった。だが、第一遊撃隊を任されてから、総和会内である程度の発言力を持とうとしていたところで、状況は一変した。秋慈が内臓を悪くしたところに、会長の交替劇が重なったのだ。総和会の中で激しい嵐が吹き荒れ、秋慈の精神はともかく、体がもたなかった。  秋慈は、長嶺会長に休職の挨拶をすると、ごくありふれた外観を持つこの一戸建てに引越し、もう数年間、療養生活を送っている。秋慈の動きを警戒して、長嶺会長はこの家を見張らせていたが、それもずいぶん前の話だ。  第一遊撃隊は、名だけを残した、形式的なものとなってしまった。それでも完全になくしてしまわないのは、前会長と長嶺会長との取り決めだと言われている。どこの馬の骨とも知れない男を隊長とする、第二遊撃隊の設立を認める代わりに、第一遊撃隊の存続を認めさせたのは、前会長なりに意地があっただろうし、何より、わが子のように可愛がっていた秋慈への愛情もあったはずだ。総和会の中での、秋慈の居場所を残しておきたかったのだ。     
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