番外編 -雌-

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 圭輔の問いかけに、加藤はちらりと視線を奥の部屋へと向ける。 「まだ寝てます。朝まで……出ていたので」  玄関の靴が散乱したままだった理由が、なんとなくわかった。先に帰宅して寝ていた加藤は、気づかなかったのだろう。 「若い奴らは元気だな。夜まで、隊の仕事を手伝っていたんだろ。それから一晩中遊んでたのか」 「南郷さんから、小遣いをもらったんです。パアッと使ってこいと言って」  南郷の現状を物語るような、羽振りのよさだ。金で買える人心などたかが知れているが、それでも、小遣い目当てで若い連中が集まれば、その中から使える人材を拾いやすくなる。たとえば、圭輔の目の前にいる加藤のように。 「中嶋さん、コーヒー飲みますか?」  イスに腰掛けた圭輔に、加藤が尋ねてくる。圭輔が知るどの〈若い連中〉よりも、加藤は気遣いができる。この部屋が、人が住める程度に片付いているのも、加藤のおかげだ。  圭輔が第二遊撃隊に入って間もなくの頃、加藤を含めた数人の青年たちの面倒を見ていたのだが、この中で一番仕事の要領がよく、それでいて、どんな雑用だろうが手を抜かなかったのが加藤だ。そのため圭輔の中では、加藤の評価は高めだ。     
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