3512人が本棚に入れています
本棚に追加
「あんたは聞きたくないだろうが、オヤジが会長である限り、総和会はこれから益々勢力を増す。そのオヤジの側近として、南郷はわが世の春を謳歌するだろうな。実際、あいつが率いる第二遊撃隊の存在は、影響力が日に日に大きくなっている。――それは、おもしろくないだろ? なんといっても南郷は、前会長を総和会から追い落とすのに暗躍したと言われている。そのことは俺より、あんたのほうがよく知ってるはずだ。前会長の親戚筋にあたるあんたは、反現会長派の神輿として、担がれかけたぐらいだ」
さきほど感じた不穏な〈何か〉は、決して錯覚などではなかったのだと、秋慈は込み上げてくる苦いものを懸命に堪える。今目の前にいるこの男は、ある意味、疫病神だ。
「いまさら……、そのときの遺恨で、殺し合いでもしろと言うのか?」
「いいや。そこまでは求めない。ただ、あんたが心底嫌っている南郷と、派手に対立してほしいだけだ。総和会の中に、ささやかな嵐を起こしてほしい。あんたが動けば、オヤジに――現会長に反感を抱く連中も、何かしら動きを見せるはずだ」
「……総和会を中から崩壊させる気か……」
空恐ろしさを覚えながら秋慈が洩らすと、賢吾は薄い笑みを浮かべて首を横に振った。
「あの組織は、これぐらいじゃ揺るぎもしないだろ。どんなものでも呑み込んで、周囲も巻き込みながら、それでも巨大になっていく組織だ。オヤジは、そんな組織の頂上にいるのが相応しい。ただ――」
常に冷静な賢吾の目に、強い感情の光が宿る。憤怒と表現するには、氷のように底冷えしているようで、秋慈はこの瞬間の賢吾の心理を推し測るのはやめておく。冷たい火で焼かれそうだ。
最初のコメントを投稿しよう!