番外編 -縁-

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 賢吾は、まるで見えない何かを恫喝するように、低く笑い声を洩らした。しかしそれもわずかな間で、笑みを消すと、一切の感情を押し殺した無表情で言った。 「あんたを疎んじたのは、俺のオヤジだ。賢いあんたはそれを察して、病気を理由に身を引いた。そんな人間を引きずり出すのは、さすがの俺も少々良心が痛む。だが今は……今後も含めてだが、総和会の中に、信頼できる駒を作っておきたいんだ」 「君自身のために」  悪びれることなく賢吾は頷く。 「うちの先生に使わせるには、あんたという駒は力が強すぎる。先生には、先生に見合った駒を与えてある」  これはいわゆる、惚気というものではないかと思ったが、口にするのも恥ずかしいので、秋慈は黙っておいた。しかし賢吾は別の意味に解釈したらしく、ぐいっとお茶を飲み干して立ち上がる。 「自称・病人に毒気の強い話をしちまったな。まあ、考えてみてくれ。そして早いうちに、返事を教えてくれ」  ジャケットを片腕にかけ、賢吾が部屋を出ていく。秋慈は座ったまま、その後ろ姿を見送った。長嶺組組長に対して、あまりに素っ気ない見送りだが、歓迎すべき客ではなかったので、これで十分だ。賢吾にしても、こんなことで気を悪くしたりはしないはずだ。     
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