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番外編 -邪-
真也が飲み物を買って戻ると、〈彼〉は窓に張り付いて外を見ていた。
日は完全に落ちているが、積もった雪で白くぼんやりと浮かび上がっている景色を、どうやら気に入ったらしい。
そういえば、と真也は思う。このホテルに到着してすぐ、外で少し雪に触れたいと言っていたのを、風邪を引くからと諭して、建物の中に入らせたのだ。
できることなら、好きなだけ雪に触れさせたいし、すぐ近くのスキー場にも連れて行ってやりたいが、悲しいかな、真也には大人としての責任があった。悪い大人なりに。
「――飲み物買ってきたよ、和彦くん」
真也が声をかけると、浴衣の上から羽織を着込んだ和彦が振り返る。風呂上がりで乾かしたばかりの髪がふわふわと揺れ、思わず真也は顔を綻ばせた。
「ありがとう、里見さん」
窓際に歩み寄った真也が袋を広げてみせると、和彦は中を覗き込み、案の定、オレンジジュースの紙パックを取り上げた。真也は缶コーヒーを取り出すと、残りの飲み物は備え付けの冷蔵庫に仕舞う。
和彦と並んでベッドに腰掛け、真也も窓の外の景色を眺める。
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