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子供であった和彦に、勉強以外にいろんなことを教えてきて、成長に伴い、利己的な欲望も伴った行為すら教えた。何度も罪悪感を抱きかけたが、その罪悪感を溶かすのは、和彦本人だった。自分が欲しがるのだから、与えられて当然なのだと、ゾクリとするようなしたたかさを覗かせて、和彦の目が訴えてくるのだ。
もしかするとそれは、自分は悪くないのだと思いたい大人の身勝手さが生む、幻なのかもしれないが。
真也が向ける視線に気づいたのか、紙パックをゴミ箱に捨てた和彦が首を傾げる。
「里見さん、どうかした?」
「いや……、大きくなったと思って。初めて会ったときの君は、本当に子供だったから。おれは、君が成長する大事な時期に関われたんだなって、不思議な感動を覚える」
「いつになく感傷的だ」
まったくその通りだと、真也は苦笑を洩らしてから、まだ中身の入った缶をナイトテーブルの上に置く。ベッドに座り直してから、和彦の頬を撫でながら、目を覗き込む。
和彦は、印象的な目の持ち主だった。初めて会ったときから、子供らしくない、喜怒哀楽を抑え込んだ静かな目をしていたのだ。ときおり示される柔らかな拒絶すら愛しくて、真也はずっとこの目を見つめ続け、気がつけば、魅了されていた。
今の和彦は、拒絶ではなく、溢れるような情愛を両目に宿し、真也を見つめ返してくれる。
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