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番外編 -檻-
まったく、らしくないことをしていると、三田村は嫌というほど自覚していた。自覚はしているが、行動を起こさずにはいられない。
それは、ひどく青臭い感情であるし、胸がざわつくほどの焦燥感でもある。それらに突き動かされるように、忙しい〈仕事〉の合間を縫って、思いつきを実行に移していた。
不動産屋で受け取ってきたばかりの鍵をポケットから取り出し、ドアを開ける。
まだ築一年というだけあって、外観だけでなく、ワンルームの部屋はきれいだった。ここをいい部屋だと言い切れるほど、確たる価値観を三田村は持ち合わせていない。三田村にとって部屋とは、ときどき寝に帰るだけの、物置に近い存在だからだ。
自分一人が過ごすなら、古くて狭いアパートで十分なのだ。だが、わざわざもう一部屋借りることにしたのには、大きな理由がある。だから、いつもの自分の価値観を発揮するわけにはいかなかった。ここがいい物件であることは、不動産屋の社員に何度も念を押して確認してある。
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