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番外編 拍手お礼1
人生を左右する出来事に巻き込まれ、茫然自失の状態にあるというのに、世間の常識から外れたヤクザには、そんな和彦の精神状態を慮る親切心は皆無らしい。
だから平気で、こんな言葉をかけてくる。
「――食わないのか」
見惚れるほど優雅な手つきでナイフとフォークを扱う男は、目を剥くような値段のステーキを見事な速さで平らげていく。ただ食事をしているだけだというのに、嫌になるほど活力と精力に溢れていた。
和彦はなんとか肉を切り分けはするのだが、口に運ぼうとするたびに胃が締め付けられるような痛みを発し、結局ほとんど食べられない。
予約を取るのが難しいと言われる人気の高級レストランで、テーブルについている誰もが食事を楽しみ、味わっている。苦痛に耐えているような顔をしているのは、ざっと見た限り、和彦ぐらいのものだ。
「食べられるわけがないだろう……」
「どうしてだ」
「……正面にあんたが座っているから」
隣のテーブルについている賢吾の護衛たちの耳を気にしながら、和彦は低い声で告げる。すると賢吾が、ニヤリと笑った。
「いくら俺でも、この場でお前を食ったりしないぜ」
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