番外編 拍手お礼2

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番外編 拍手お礼2

 車に酔った、と和彦がぽつりと洩らしたとき、表情に出さないまま、三田村は動揺していた。  反射的にバックミラーに視線を向けると、和彦はウィンドーの外を眺めている。柔らかな黒髪を鬱陶しそうに掻き上げ、三田村が知る誰よりも色男という表現が相応しい顔を思いきりしかめて。  体調が悪いというより、機嫌が悪そうだ――。三田村は心の中でそう判断を下す。  和彦の護衛兼世話係となってそろそろ半月になるが、少々理屈っぽいところがある彼は、口ではとやかく言いながらも、基本的に従順だ。それは、賢吾や長嶺組に対する恐怖や諦観といった感情からくるものだろうが、やはり頭がいいのだと三田村は思う。  言動すべてに神経を張り詰めた和彦は、自分を取り巻く環境や人間との距離を測っているのだ。そうすることで、自分が安心できるスペースを確保している。感情的な人間にはできない芸当だ。なのに今日は、張り詰めたものがいくらか緩んでいる気がした。  そこに、車に酔ったという発言だ。三田村としては、自分が気づかないうちに、とうとう和彦の精神力に限界がきてしまったのかと考えたのだ。     
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