番外編 拍手お礼4

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番外編 拍手お礼4

 和彦はその場に立ち尽くし、空を見上げる。つい一時間ほど前まで、目を射抜きそうなほど鮮やかな青空が広がっていたというのに、今は灰色の雲に覆われ、雨が降り出していた。  最初はぽつぽつとした降りだったが、和彦が空を見上げているうちに、あっという間に降りは強くなってきた。周囲を行き交っていた人たちの足取りが速くなり、人気が乏しくなってきたが、和彦だけはその場から動かない。  暗い灰色の空から水滴が無数に落ちてくる光景に、一時心を奪われていた。夏の、湿気を含んだ空気は嫌いだが、いざ雨が降ってくると話は別だ。  またたく間に顔や体が濡れていき、目を細めた和彦は前髪を掻き上げる。もう少し雨の勢いが強くなると、さらに気持ちいいかもしれない、と考えたそのとき、頭からバサッと何かが被せられた。 「何してるんだ、先生」  傍らから、怒ったような声がかけられる。驚いた和彦は目を丸くしながら、頭から被せられたものを引っ張って確認する。それは、見覚えのあるジャケットだった。 「風邪を引くぞ」     
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