番外編 拍手お礼11

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番外編 拍手お礼11

 ダイニングに入ると、なんとも香ばしい匂いが和彦の鼻先を掠める。軽く鼻を鳴らし、匂いに誘われるようにふらふらとキッチンに近寄ると、思ったとおり笠野の姿があった。  この家で、ダイニングとキッチン以外で笠野の姿を見かけることのほうが珍しいため、いつもの光景と言ってもいいだろう。そして、一応〈客〉である和彦が、物珍しそうに笠野の作業を眺める光景も。  和彦の存在にとっくに気づいていたのか、こちらから問いかける前に笠野が教えてくれた。 「今、節分豆を炒っているんです」  予想外の答えに面食らった和彦は、首をかしげながら率直な疑問をぶつける。 「節分って……、豆、まくのか?」  こちらを振り返った笠野が、やけに楽しげな表情で頷く。 「ええ。一部屋ずつ回って、鬼は外、福は内と言いながら豆をまくんです。片付けは大変ですが、長嶺組ではずっと続いている行事ですからね」 「……意外に、細かい行事ごともきちんとやっているよな、ここは。もしかして――」  男所帯のこの家に、雛人形もあるのではないかと一瞬考えたが、さすがに口に出すのはやめておいた。ある、と答えられたら、なんとも微妙な気持ちになるのは目に見えている。     
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