番外編 拍手お礼15

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番外編 拍手お礼15

 駐車場から雑居ビルに駆け込んだ三田村は、ジャケットについた水滴を手で払いのける。朝から空模様は怪しかったが、とうとう我慢できなくなったようだ。  なんとも梅雨らしい、生ぬるい雨とまとわりつくような湿気が非常に不快だが、それ以上に不快なのは、左手の甲の醜い傷跡が微かに疼くのだ。  滑る足元に気をつけながらエレベーターに乗り込み、三階の詰め所に向かう。今日は午前中のうちに、仕上げておきたい書類があった。それを若頭に目を通してもらってから、組長である賢吾の元に向かわなければならない。おそらくそこには、和彦もいるだろう。  和彦のことを考えた途端、傷跡の疼きがまったく気にならなくなる。代わりに、胸の奥で奇妙なざわつきを感じた。  三田村はわずかに眉をひそめたものの、エレベーターが三階に着くまでに完璧な無表情を取り戻していた。  玄関に足を踏み入れると、若衆がタオルを手にすっ飛んできて、大きな声で挨拶をする。差し出されたタオルを受け取り、頭を拭きながら奥の部屋へと行く。     
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