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番外編 拍手お礼21
なんとなく起き上がる気力が湧かず、和彦は大きなベッドに横になったまま、窓の向こうに投げ遣りな視線を向ける。
けぶる景色というのだろう。大降りの雨によって、見慣れつつある眺望はベールがかかったように霞み、今が朝だという感覚さえ狂わせてしまう。
もっとも、囲われの身である和彦には、朝だからといって慌ただしく出勤の準備をする必要もなく、ただ憂鬱な気分と、厭世感をたっぷり味わうぐらいしか、やることはない。すでに朝食の準備はできているのだろうが、食欲もなかった。
本格的な梅雨の時期となり、ここ数日、ずっと雨が続いている。気温も湿度も高く、ひとたび一歩外に出ると、不快さを引きずりながら動くことになる。
クリニックに勤めている頃は、どんな天気であろうが関係なく、時間となれば準備を整え、出勤していたのだが、そのクリニックを辞め、さらにこのマンションに移ってからは、和彦はそういう義務と完全に切り離された。
ただ、たった一人の男の都合によって振り回される生活だ。
おかげで和彦の精神状態は、健全とは言いがたい。何かのスイッチが切り替わるように、突然気分が塞ぎ込むのだ。そして今が、その状態だった。多分。
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